桜庭先生- 皆様、ご機嫌よろしゅうございます。しなやか女子の心得第33回を始めさせていただきます。
しなやか女子の心得とは…
ビジネスでもプライベートでも使える!知っておきたいマナーや常識を、心磨きの達人が伝授する、大人女子のためのお悩み相談所。テンプレート通りの立ち居振る舞いでは、ちょっぴりお堅い女子に見えてしまいがち…。ここでは、周囲だけでなく自分の心をも解きほぐす、桜庭流の美しい所作や心の在り方をお教えします。
名刺交換や席次だけじゃない?ビジネスにおけるマナーの心得
相談者:あいり- 私はメイクアップアーティストのまだアシスタントなのですが、会社員の経験がないのでマナーを習ったことがありません。簡単な接客の研修は受けただけで自信がありません。一番気をつけた方がいいことはなんですか?
相談者:ゆな- 新人研修の担当をしているのですが、若いインターン生の中で「うん、うん、うん」という感じの返答をする子がいて気になっています。やはり注意すべきでしょうか?
皆様、ご機嫌よろしゅうございます。
今回は、普段仕事をする中でちょっと心配になったり困っていたりすることについてご質問をいただきました。改めてマナーの基本とは何かについて考える良い機会になればと思います。
あいりさんは、どうやら一般企業でのマナー研修を受けたことがないと不安のご様子ですが、まったく心配いりませんよ。社会のグローバル化が進む中で、企業が必要とするビジネスマナースキルは近年ますます多様化しているのです。あいりさんの場合、周りを見渡せば、活躍されている同業界の先輩方や同じ志しを持つ同僚・仲間がすでにいらっしゃいますね。今いる場所こそが学びの場であり、最高のマナー研修になっているのではないでしょうか。どうぞ自信をもって、メイクアップアーティストという夢に向かって邁進してくださいね!
ゆなさんが気にされていた「うんうん」のうなずき方ですが、確かにこの返答の仕方は軽率で馴れ馴れしい印象を受けますね。細かいことを指摘することに躊躇してしまう気持ちはわかりますが、きちんと注意すべきでしょう。インターン生なら今後のためにもなおさらです。
さて、このように、ビジネスマナーとは何も名刺交換や席次の順番を知ることだけではないのです。皆様ともこちらのコラムを通してたくさんのお勉強を積んでまいりましたね。今日は、日常の中でマナーについて悩んだり迷ったりした時のために、戦国時代・安土桃山時代の茶人で、わび茶の世界を確立した千利休の教えをご紹介いたしますね!利休が説いたこの『利休七則』は、実は、サービス業や営業職の研修ツールとしてもよく使われているんですよ。
【利休七則(りきゅうしちそく)】
茶は服のよきように、炭は湯の沸くように、花は野にあるように、
さて夏は涼しく冬は暖かに、刻限は早めに、降らずとも雨の用意、相客に心せよ
難しい表現も少しありますが、一つひとつ考えてみましょうね。
- 一.茶は服(ふく)のよきように点(た)て
- 二.炭は湯の沸くように置き
- 三.花は野にあるように
- 四.夏は涼しく冬は暖かに
- 五.刻限は早めに
- 六.降らずとも雨の用意
- 七.相客に心せよ
「お茶を一服(いっぷく)いただく」と表現するように、心をこめて美味しいお茶を淹れることが大事だということです。それは相手のお茶の温度や味の好みだけではない、おもてなしの精神の根源ではないでしょうか。
昔はガスのスイッチ一つで火がつく時代ではありません。炭を置く位置が悪ければ火がうまくつかず、お湯が沸きません。事前準備の大切さ、物の本質を見極める力が必要です。
「花は自然に生けなさい」ということですが、それは自然そのままをシンプルに再現をすることではなく、自然界から与えられた美しい花の命をどう生かすか。そこに人間としての真価を問われているような気がいたします。
ガスと同じように冷暖房のない時代、茶の湯の世界では季節感を様々な方法で表現しました。お客様にとっての心地よい空間とはなにかを考えてみる。それはすべてのビジネスにおいても通ずる心ではないでしょうか。
「時間には余裕を持ちましょう」とは、現代において時間厳守の意味合いが強いかもしれませんね。ビジネスの現場でもこの箇所は強調して指導しているようです。しかし茶の湯の世界では、このゆとりのある心を持ってこそ、相手への配慮につながると心得ます。自分がゆったりとした気持ちになることがまずは大事なのかもしれませんね。遅刻しても良いわけではありませんが(笑)。
言葉通り、「雨が降らなくても傘の用意をしておこう」という意味ですが、どんなときも、何ごとにつけても準備を怠らないという教えですね。個人的には、最近わたくしが一番元気の源になる教訓です。チャンスがきた時のために、今を楽しみながら準備をしておく。そう、あいりさんにとっては、アシスタントの立場でも海外コレクションへの準備をしておく♪ ほかの皆さまにとっては、お客様が来なくても部屋のそうじをする、彼氏がいなくても可愛くしておく!? それは何でもいいのです。あなたがワクワクする未来への準備、利休さんもきっと褒めてくださると思いますよ。
「相客」とは、お茶会で同席したすべての人をいいます。最後は、お客様を敬う心と、一期一会の出会いについて説いています。
これは、ある弟子が「茶の湯とはどのようなものですか」と利休に尋ねたところ、この七則を語り「これがすべてです」と答えたそうです。それに対し、弟子は「そんなことくらいなら私でもできます」と不満そうにいうと、利休は「もしこれが完璧にできたら、私はあなたの弟子になりましょう」と答えたそうです。
一見簡単そうに見えることが、実は一番難しい。それが何ごとにおいても基本というものなのでしょうね。もしもあなたが人間関係や、はたまたマナーに悩んだ時には、ぜひ、数百年も前の利休の言葉に耳を傾け、先人の優しい心を感じてみましょう。
悩みの雲は晴れましたか?
『しなやか女子の心得』第33回、いかがでしたか?
お仕事だけでなく、冠婚葬祭やフォーマルなお食事会、彼ママ訪問など、大人女子がマナーや振る舞いに不安を感じてしまうシーンはまだまだ沢山あるはず。アナタが普段抱いている疑問を、桜庭先生に相談してみましょう。
心磨きの達人・桜庭佳織里先生のプロフィール
幼少より、茶人の父のもと茶道の手ほどきを受け、研鑽を積む。
大手企業の第一線で活躍したのち、茶道の“心・心得”を通し、より豊かで幸せに生きるための茶ごころマナー、ライフワークを、各種団体・個人に向けて幅広く発信している。
- 桜庭先生
- 『MotecoBeauty』では、自分磨きに励む皆さまのお悩みを、茶道の精神“和敬静寂(わけいせいじゃく)”の心と、わたくし自身の経験をもとに解決していきたく思っております。今よりずっと豊かで美しくなれる心の在り方を、一緒に勉強してまいりましょう。